自分に嘘をつかない

内面を言葉で表現する

あの場所、いや、あの時だよ。

お題「もう一度行きたい場所」

 

高校時代、うどん屋でバイトをしていた。

 

始めたのはたしか1年の夏だったか

 

最初はコンビニで働こうと思ったが、

 

「うちは今バイト募集してないんでね〜」

 

と、キッパリ断られたため、他の店を探したのがキッカケだった

 

ちなみにこの後すぐ友人がこのコンビニでバイトを始めた。

 

さて、当時住んでいたところは田舎だったので店らしい店もなく、

 

選択肢として残されていたのが、うどん屋だったわけだ。

 

そこは70代ぐらいのお爺さんとお婆さんが個人経営しているうどん屋で、

 

近所の人にはおいしいと評判のお店だった。

 

働き始めてすぐに私もこの店が気に入った。

 

賄いとして好きなうどんを食べさせてくれるのだ。

 

ここの店は冷のぶっかけうどんと、贅沢に一本まるまる使ったちくわ天がそれはもう美味しくて、、美味しくて、、

 

それだけではない。

 

この店は店員もいい人ばかりだった。

 

店主のお二方はもちろんのこと、パートとして手伝いにきていた40代主婦のSさん

 

この人はたまに自分の家から材料を持ってきて、他のバイト仲間にかき揚げを振舞ってくれた。

 

これまた絶品。

 

かき揚げ単品でもおいしいのに、

 

うどんの出汁と絡み合うことで

 

ダウンタウンもびっくりのゴールデンコンビだった。

 

Sさんはいつも朗らかに笑う人で、ザ・オカンという感じだ。

 

次に私より4つ上のTさん。

 

この人は超がつくほどのイケメンだ。

 

どれくらいイケメンかというと、

 

お店のレビューに

 

「ここにはイケメンのお兄さんがいる」

 

と書かれるほどである。

 

おまけに面倒見がよく、性格も爽やか、バンド活動でギターボーカル担当という、

 

少女漫画の王道を行くような人だった。

 

バンド活動も真剣に行なっており、後にプロを目指して大阪に旅立ったんだから、ほんとにかっこいい人だった。

 

私も当時はギターを齧っていたので仕事と同時に色々と面倒をみてもらっていた。

 

他にも色々な人がこの店にはおり、中でも店主の娘さん家族はよくお店の手伝いにきていた。

 

娘さんのお子さんが3姉妹だったのだが、この子達がまた可愛いのである。

 

上から小6、小4、小1だった気がするが、特に小1の子は私に懐いてくれてとても楽しかった。

 

この店にいる人はみんな、いい人だった。

 

そのおかげで、この店にいる間は、私までいい人になれた気がしていた。

 

だが

 

そんな時間も長くは続かない。

 

1年の終わり、花は枯れ、 生物の活動が見られなくなる頃、

 

突如担任にバイトがバレた。

 

私は働いていることを3人だけにしか話していない。

 

親友2人と、なぜか急に話しかけてきた女子1人。

 

親友2人は話すはずがなかった。

 

ということは犯人は残りの1人。

 

この女子は女子からも嫌われる女子で、口も悪ければ性格も卑劣な奴だった。

 

こいつのおかげで、私はバイトを辞めることになった。

 

年末付近で忙しい時期だったので、とても申し訳ない気持ちだった。

 

辞め方に引け目を感じ、以後私はその店に行くことは一度もなかった。

 

時は過ぎ、

 

高校3年の秋

 

母から例のうどん屋の話を聞いた。

 

「あんたが働いていたあのうどん屋

 

潰れるって」

 

母はお店の無料券を差し出し、潰れる前にもう一度行くよう促した。

 

だが未熟な私は受験勉強を言い訳に使い

代わりにいってくれるよう頼んだ。

 

本心は違う。

 

忙しい時期に辞めてしまった引け目、裏切りのような気持ちがあったから、会わせる顔がなかっただけだ。

 

結果として、この決断があの冷ぶっかけうどんを食べる最後のチャンスを断ち切ってしまった。

 

今になってみればあの時、行けばよかったと思う。

 

会わせる顔というのはこっちの都合だ。

 

あちらに対して長年の労いの気持ち、感謝の気持ちがあったなら、体を引きずってでも向かうべきだった。

 

それももう今では叶わない。

 

 

_________________________

 

 

もう一度行きたい場所はどこですか?

 

そう聞かれたら、

 

高校時代に働いたあのうどん屋

 

いや、

 

あの場所ではなく

 

あの時、にもう一度行ってみたい。

 

そう答えるだろう。