スワイプ女
今日は色々なことがあった。
まず昨夜の寝つきがよくなかったので、スタートダッシュがうまくいかない。
予定より三時間も遅れて目が覚める。今日は更新期限の切れた免許を更新する日だった。受付は二時までなので少し気が急いだ。
正直免許センターは遠いので気が向かなかった。お金もいくらか持っていかれる。
だが今日を逃すと次はいつになるか分からなかったので渋々支度をする。
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道中、平日の昼にも関わらず電車はほどほどの混み具合だった。
サラリーマンや学生、ニートに風俗嬢らしき人までさまざまだ。みんな忙しそうな様子で、同時に少し気が沈んでいるように見えた。僕は周りからどう映っているだろう。
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センターでは視力検査が心配だったが無事にパスできた。事務的な作業が続いて面倒だったが、職員の人たちはより気だるげで全体にゆったりした時間が流れていた。講習を担当した人だけは少し覇気があった。が、それも更新者たちの気だるげな態度によって次第に失われていった。最後の方はほとんど声が出ていなかった。
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暇なときはずっとスマホを触っていた。本を読んだり、ネットをしたり。勉強中のものを先に進めたりもした。
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日が暮れて家に帰る頃、駅に続く通路のフチで、一人の女が壁に寄りかかり立っていた。スマホをいじっている。瞬間、指でスマホをスワイプした。画面を下から上になぞる動作のことだ。勢いがあったのか、スワイプした指は大きく上に上がった。
ふっ、と小さな笑いが出た。電車に乗って一日を振り返ると、まずいことにスワイプ女が頭から離れない。色々あって結局これか。張っていた肩の力が抜けた気がした。
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今日の読み物
さて、今日は夢野久作さんの書いた「恐ろしい東京」という話。
今までこの方の本は読んだことがなかったのですが、ふと見たブログでオススメされていたので読んでみようかなと思いました。青空文庫にもあるので、興味が出た人がいたら是非。
では自分の思ったことを書いていきます。どうぞ。
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Title: 恐ろしい東京
Author: 夢野久作
Source: 青空文庫
●思ったこと 構成
- 独特な言葉遣い (カタカナ、語彙)
- あえて自分を下げて話す
- 言語能力の高さ
● 1. 独特な言葉遣い (カタカナ、語彙)
カタカナを多用する
難しい語彙を多用する
カタカナ 例
- 丸キリ
- モトの階段
語彙 例
工合・・・物事のやり方(≒具合)
聳立・・・ひときわ高くそびえ立つこと
白髯・・・しろいほおひげのこと
過般・・・このあいだのこと
咄・・・呼びかけるような語感のこと
肺腑・・・心の奥底からのこと
このほかにも一瞬戸惑うカタカナ遣いや難解な語彙が多々見受けられた
時代の流行りもので、著者特有のものでない可能性はある (初出: 1937(昭和12)年2月)
● 2. あえて自分を下げて話す
引用
山の手線電車が田町に停まったら、降りた人が入口を開け放しにして行って寒くてしようがないので、入口を閉めようとしたが
~
マゴマゴしているうちに、自動開閉器で閉まって来た扉に突き飛ばされかけた。 この恨みは終生忘れまいと心に誓った。
本作は東京を恐れる田舎者という視点なので卑下は避けられないのかもしれないが、それにしても自分を下げて話す印象があった
● 3. 言語能力の高さ
一方で、ハッとさせられる発言もある
引用
このアンバイで見るとその生存競争があんまり高潮し過ぎて、人間離れ、神様離れした物凄いインチキ競争の世界にまで進化して来ているようである。
「インチキ競争の世界」とは東京のことであり、田舎者の感じる東京への違和感を一言でズバリと表現するところから、著者は相当の言語能力を有していたことが分かる。(名著として語り継がれているのだから当たり前ではあるがそれにしても的確だと思った)
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読んでいてなんとなく、夢野久作さんは独特な感性があるばかりに生きづらかったのではないかと感じた。田舎育ちの純な部分も感じられたし、この人がどう生きたのか気になります。
他の作品も読んでみようと思います。